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男「おい、ちょっと来い」

1:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/04/24(火) 18:57:47.87 ID:QpnER4ZXo

「お前って英語得意だったよな」

女「比較的、だけど」

男「処女膜の英語って何だ」

女「え、そんなこと聞いてどうするお積りですか、旦那」

男「諸事情」

女「諸事情て……」

女「辞書使えばいいじゃん」

男「女の口から言わせれば面白いだろ、クク」

女「ダメだこの人」

男「いいから答えろ」

女「……お、オマンコ・ザ・ウォールですけど」



引用元
男「おい、ちょっと来い」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1335261467/
2:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/04/24(火) 18:59:05.08 ID:QpnER4ZXo

男「はぁ?」

女「だから、オマンコ・ザ・ウォールだよ」

男「オマンコって英語じゃねえだろ。しかも、壁ってなんだ?
 てめえのマ●コはコンクリートで出来てんのか? 病気か? 頭の病気か? 死ね」

女「冗談だよ……そこまで言わなくても」

男「まあ、いいや。英語とか興味ないし」

女「結局、私がバカにされただけ!?」

男「授業始まるぞ。席付け」

女「……」

女「じゃあ、私の手、放してよ」



3:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/04/24(火) 18:59:34.29 ID:QpnER4ZXo

男「それが人に物を頼む言い方か」

女「どうか手を放して下さい」

男「やだね、クク」

女「……最低だこの人」

男「嫌なら思いっきり引っ張ればいいだろ」

女「それは……ちょっと嫌かな」

男「あ? 俺に惚れてんのか」

女「ほ、惚れてませんけど!」

男「クク」

女「うぅ……」

M教師「おい、そこ席に着けよ」

男「だってよ、クク」

女「……分かりました」



4:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/04/24(火) 19:00:06.55 ID:QpnER4ZXo

女「座りました」

男「何してんだ、こら」

女「男君の椅子に座りました」

男「俺が座ってるの見えなかったのか」

女「だから、遠慮してお尻半分しか乗せてないよ。ちょっとこの体勢疲れるけど」

男「……ちっ」

女「あ、ありがと」

男「うるさい、突き落とすぞ」

女「うん」

男「おい、くっつくな。本気で押しのけるからな」

女「うん」

男「冗談じゃないから。痛い目に遭いたくなかったらどけ」

女「うん……」



5:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/04/24(火) 19:00:44.05 ID:QpnER4ZXo

男「何で動かないんだよ。痛いぞ。本気だぞ」

女「う、うん」

男「どけよ。本当にやるからな。もう後は無いぞ」

M教師「いい加減にしろ、お前ら。10分くらい廊下立って頭冷やせ」

男「今時廊下って古臭い事しなくても」

M教師「こ・い・び・とよ~、僕は 旅立つ~」

男「急に歌いだしたぞ。このジジイボケてるんじゃないか」

M教師「冗談だ。さっさと、廊下行け。授業の邪魔だ」

女「あ、あの、男君は悪くなくて――」

男「黙れクソビッチ。廊下行くぞ」

女「あっ……」



6:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/04/24(火) 19:01:16.10 ID:QpnER4ZXo

女「ご、ごめん」

男「授業サボれてラッキーじゃないか」

女「そうかも知れないけど……」

男「教師のお墨付きでサボれるなんて中々ない」

女「でも十分も立ってるなんて疲れるよ」

男「じゃあ、暇だし外庭行くか」

女「男君、不良だね」

男「たまにはいいだろ。暇は人生の大敵なんだよ。お前が嫌でも一人で行くからな」

女「いく! わたしも行くから!」

男「声でかい」

女「ご、ごめん」



7:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/04/24(火) 19:02:14.55 ID:QpnER4ZXo

…………
……

女「いい天気だね」

男「そうだな」

女「雲が一つも無いよ」

男「お前の肩にはでかいクモがいるけどな」

女「な! と、ととととととととと!」

男「トイレ? ここでしても良いぞ。見ててやるよ、クク」

女「とって、とって! 蜘蛛とって!」

男「あー、分かったから、くっつくな! というか冗談だ」

女「え……冗談?」

男「いや、こんなに驚くとは……すまん」

女「私が虫とか苦手なの知ってるよね!」

男「…………」

女「無視も苦手だよ!」



8:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/04/24(火) 19:02:46.93 ID:QpnER4ZXo

男「そろそろ離れろ。クモいないの分かっただろ」

女「嫌」

男「嫌って……」

女「私に嘘ついた罰だよ」

男「ちっ」

女「んー」

男「……」

女「んん~」

男「顔こすり付けんな! 服にシワ付くだろ」

女「罰だよ、ば・つ」

男「調子に乗ってると殺すぞ」

女「バツバツ星人~」

男「はぁ……」



9:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/04/24(火) 19:03:23.72 ID:QpnER4ZXo

女「男君って男らしい身体してるね」

男「なんだ、やっぱ俺に惚れてるのか」

女「ほ、惚れて……」

男「……」

女「……」

男「死ね。クソビッチ」

女「ひど! 私ビッチっじゃないよ。淑女だよ!」

男「淑女は男の身体をべたべた触らない」

女「べたべた淑女だよ!」

男「訳が分からない」



10:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/04/24(火) 19:04:25.55 ID:QpnER4ZXo

女「……このドS」

男「どっちかというとMだと思うんだが」

女「へっへっへ、私の足で感じてみる?」

男「感じねえよ、死ね」

女「絶対Mじゃないよ! しかもさっきから死ね死ねって口悪いよ!」

男「すまんしね、すまんしね」

女「全く謝る気のない謝罪だね……」

男「お前はMだよな。でなきゃこんな口悪い奴の相手しなだろ」

女「ひ、否定はできません……」

女「というか自分で口悪いって認めたね」

男「自覚はしてるからな」



11:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/04/24(火) 19:05:22.89 ID:QpnER4ZXo

女「って、もうこんな時間だよ。教室戻らないと」

男「20分経ってるな」

女「ど、どうしよう……」

男「お前に生理がきた。俺はお前を介抱した」

男「これでいこう」

女「ばれるよ……」

男「まあ、いいか。怒られにいこう」

女「だね」



12:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/04/24(火) 19:05:52.87 ID:QpnER4ZXo

男「どうも」

女「ど、どうもです」

M教師「ああ? 勝手にドアが開いたぞ。田中、閉めとけ」

田中「は、はい」

男「おーい、先生」

M教師「あー、ここまでで分からん所はあるか? あったら手挙げろ」

女「あのー」

M教師「いないな。次ぎ行くぞ」

男「……」

男「難聴か? 救急車呼ぶか?」

M教師「……」

M教師「お前ら……昼休み職員室来い。今は席に着け」



14:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/04/24(火) 19:06:59.98 ID:QpnER4ZXo

…………
……

M教師「お前らな、反省してんのか?」

女「す、すみませんでした」

男「すいませんでした」

M教師「お前もなぁ、口は相変わらずだが、不良行為をするなんて無かったろ?」

男「そうでしたっけ」

M教師「何かあったか?」

男「……強いて言えば」

M教師「おう」

男「学校生活で一度くらいはフケても良いのでは無いかと思いました」

M教師「……ははは、それでか?」

男「はい」

M教師「はぁ……まあいいよ。次からは気を付けろ。反省文は明日朝一な」

男「すいませんでした」

女「すみませんでした」



15:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/04/24(火) 19:07:30.78 ID:QpnER4ZXo

男「ふぅ……」

女「怒られちゃったね」

男「当たりまえだろ。それより反省文とか小学生かよ」

女「それこそ仕方ないよ」

男「よし、俺の分も書いてくれ」

女「よし、じゃないよ。それくらい自分で書きなさい」

男「……全部英語で書いてやろう」

女「知らないからね」

男「アラビア語で」

女「知らないでしょ」

男「日本語でいいか」

女「無難が一番だよ」



16:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/04/24(火) 19:08:13.86 ID:QpnER4ZXo

…………
……

男「ふぅ……やっと放課後か」

女「帰ろう帰ろう、一緒に帰ろう」

男「1人で帰れ」

女「ひど……って、今日は私掃除当番だからしょうがないね」

女「男君、先帰ってて良いよ」

男「ああ」

女「それじゃ、ばいばい」

男「じゃあな」



17:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/04/24(火) 19:08:46.55 ID:QpnER4ZXo

…………
……

女「みんな、またねー」

A子「うん、バイバーイ」

E子「ばいちゃ~」

女「ふぅ、疲れた……って男君」

男「よっ」

女「待っててくれたんだね。男君優しいね」

男「うぜえ」

女「褒めたのに!?」

男「褒められるの苦手なんだよ」

女「照れ屋だね」

男「ちっ」



18:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/04/24(火) 19:09:18.47 ID:QpnER4ZXo

男「待って損した」

女「ごめん、ごめん。お詫びに何でも言うこと聞くから」

男「そうだな……じゃあ、一生俺の奴隷になれ」

女「良いよ」

男「は?」

女「男君何だかんだで優しいから、良いご主人様になりそうだしね」

男「ごしゅ――は? お前の頭の中はスポンジで出来てるのか?」

女「ご主人様♪」

男「し、死ね! ご主人様禁止、それでこの話は終わりだ!」

女「りょーかいです、ご主――」

男「だまれだまれだまれ」



19:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/04/24(火) 19:09:56.40 ID:QpnER4ZXo

男「ただいま」

母「おかえりー」

女「ただいまー」

母「あ、今日も来たんだ。おかえり~」

男「おい、何当たり前みたいに俺の家に来てるんだ? というか『ただいま』っておかしいだろ」

女「だって……」

母「何言ってんの。この子はもう娘みたいなもんよ」

女「だって?」

男「……」

女「さ、男君の部屋行こう、部屋」

男「分かったから走るな」



20:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/04/24(火) 19:11:45.89 ID:QpnER4ZXo

…………
……

男「はぁ……お前もそろそろ家族と和解して、自分の家に帰れよ」

女「いや、喧嘩とかはしてないんだけどね」

男「ガキじゃないんだから再婚くらいでウダウダ言うな」

女「でも、やっぱり気まずいと言いますか……」

男「新妻さん、いい人そうだったじゃん」

女「そうなんだけど……いざ、お義母――新妻さんと話すとなると緊張しちゃって」

男「いいけどさ、しばらくは」

女「うん、ごめんね。お父さんも最初の一ヶ月くらいはラブラブしたいだろうし」

男「まあな」



21:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/04/24(火) 19:12:10.08 ID:QpnER4ZXo

男「飲み物取ってくるよ」

女「うん」

女「……」

女「…………」

女「男君の布団……すぅ……」

女(うん……やっぱり、良い匂いがする)

女「んーっ、すぅ……んん~」

女(ちょっとこれドキドキするね。匂いと背徳感で……)

女「あれ、これなんだろ」



22:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/04/24(火) 19:13:23.05 ID:QpnER4ZXo

男「持ってきたぞ」

女「だ、だだだだだだだだだだだ」

男「なんだ、マシンガンの物真似か?」

女「大丈夫であります!」

男「は? って今何か背中に隠しただろ」

女「か、かかかかかかかかかかかか」

男「ちょっとゲシュタるからやめて」

女「隠して御座いませんで致すよ!」

男「変な日本語になってるぞ。大丈夫か」

女「嘘です。これ、見てしまいました」

男「俺のエロ本を勝手に……」

女「ごめんなさい」

男「はぁ……興味あるなら貸してやるのに、言ってくれたら」

女「へ?」

男「興味あるんだろ。なら見ていいぞ」

女(そうきたか……)

女「では、遠慮無く……」

男「おう」

女「ちらり」

本「『ロリっ子陵辱旅日記~和炉・亜炉・洋炉に女将様~』あひ~ん」

女「炉っ――!?」

男「どうかしたかー、クク」

女「……やっぱ返します、これ」

男「そうか?」

女「はい」



23:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/04/24(火) 19:14:18.53 ID:QpnER4ZXo

女「男君って……その、ロリコンなんだね」

男「いや、俺は1から100までオールカモン」

女「男らし……い?」

男「知るか」

女「私みたいなのは、どう?」

男「は? やっぱ俺に惚れてるだろ」

女「ほ、惚れてませんー!」

男「ビッチはだめ」

女「はいはい! 私、淑女です!」

男「のこのこ好きでもない男の部屋にあがって来て淑女はないだろ」

女「む」



24:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/04/24(火) 19:14:49.19 ID:QpnER4ZXo

男「否定はできない」

女「先に言わないでよ」

男「お前の言うことは大体分かるんだよ」

女「それって……」

男「なんだよ」

女「私に惚れてるってこと?」

男「惚れてねえよ」

女「ちょっとは照れてよ」

男「うっとうしい」

女「むー」



25:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/04/24(火) 19:15:50.20 ID:QpnER4ZXo

女「これならどうだ」

男「は? ――って腕に絡むな!」

女「本当に惚れてないの?」

男「知るか!」

女「……」

男「は、離せよ」

女「嫌なら思いっきり引っ張れば?」

男「……」

女「へへー」

男「うりゃ」

女「うわっ――! いたっ」

女「……」

女「この人本当に引っ張りました」

男「うぜえ」

女「うぅ……」

男「なんだよ」

女「ばかばか」

男「は?」

女「私、お母さんのとこ行くから」

男「行ってろ、行ってろ」



26:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/04/24(火) 19:16:16.59 ID:QpnER4ZXo

…………
……

母「ご飯できたわよ」

男「おう、今行く」

母「フフフ」

男「何で笑ってんの」

母「今日はあの子に手伝ってもらったの」

男「は? あいつが料理下手なの知ってるだろ?」

母「うん。だからあんたの分だけ」

男「おいおい……」



27:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/04/24(火) 19:16:42.62 ID:QpnER4ZXo

女「あ、食器並べときました」

母「ふふ、ありがとう」

男「おい、何で作ったんだよ」

女「オムライスくらいならできるかなー、と思いまして」

男「それで?」

女「あははは……」

男「……」

女「だ、大丈夫だから! 自分で食べるよ。だから私の分食べてくれれば」

男「……はぁ、いいから。俺が食うよ」

女「でも――」

男「だまれくそびっち。席着け、席」



28:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/04/24(火) 19:17:16.16 ID:QpnER4ZXo

母「頂きます」

男「いただきます」

女「……いただきます」

男「んむ……」

女「……」

男「まずい」

女「……ごめん」

男「んむ……まずい」

女「ごめん」

男「よくこんなの作れるな」

母「料理さえできれば、理想の女の子なのにねー」

女「うぅ……ごめんなさい」

母「いいの、いいの。なんなら今度ゆっくり勉強しよ」

女「あ、はい!」



29:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/04/24(火) 19:18:20.75 ID:QpnER4ZXo

男「ごちそうさま」

母「ちょっと、食器浸けといてよ」

女「あの、私がやっておきます」

母「ありがとー。息子とは違っていい子ねー」

女「いえ……有難う御座います」

母「このままここに住んじゃいなさい!」

女「それは……男君がなんて言うか分かりませんし」

母「だいじょうび、だいじょうび。本当に嫌なら家に近付かせすらしないから、あの子」

女「そうなんですか?」

母「男友達ですら、年に2,3回来ればいい方ね。だからあの子の事なら大丈夫よ」

女「……はい」

母「後、話聞いたけど、向こうのおかあさんとも早く打ち解けなさいね」

女「有難う御座います、おかあさん」



30:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/04/24(火) 19:19:06.26 ID:QpnER4ZXo

…………
……

女「私だよ」

男「おう、入れ」

女「お風呂沸いたって」

男「先入るか?」

女「うぅん、後でいいよ」

男「そうか。なら先いくぞ」

女「うん」

女「……」

女(……行った……かな)

女「んふふ」

女「布団!」

女「んん~んぅぅ」

女「いい匂い」



38:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/04/26(木) 01:25:19.32 ID:jOifLYV/o

…………
……

女「風呂上りは牛乳に限るね」

男「腹壊すなよ」

女「大丈夫です。淑女ですから」

男「関係ないだろ」

女「どうも才色兼備の淑女です」

男「それ全く腹関係ないから。あと料理出来ないだろ」

女「……精進します」



39:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/04/26(木) 01:26:55.04 ID:jOifLYV/o

女「それで、あの、男君」

男「ああ、時間か」

 時刻は24時前。
本来なら寝てもいい時間帯なのだが、今日は月曜日だ。
床に就く前にしなければならない事があった。

女「ごめんね、毎週毎週」

男「別に」

 申し訳なさそうにする彼女を横目に、俺は引き出しから取り出したナイフで左腕を浅く切った。
軽い痛みとともに、腕から赤い血がにじみ出る。

女「それじゃあ……ん」

 彼女は俺の差し出した腕にそっと顔を近づけ、切り口に舌を軽く押し当てる。
舌を巧みに使い血をすくうと、喉の奥へとその血を流し込んだ。

女「っん……ちゅる、ん……」

 会話は無く、ただ唾液が鳴らす音だけが聞こえていた。



40:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/04/26(木) 01:29:37.13 ID:jOifLYV/o

女「ぁむ、ちゅ……ん、ちゅる……ふぁ、んむ」

  初めの方こそ穏やかだった”吸血”も次第に大胆さを帯びていき、
 傷口を口全体で舐るようにして血を吸い取っていく。
 痛みも感じるが、快感とも呼べる不思議な感覚が腕から伝わり始める。

女「……くちゅ、んっ……れろ…ちゅっ」

女「……んんっ……ぷはっ」

  吸血を始めて5分くらいだろうか、彼女は口を離した。

男「もういいのか」

女「うん、ありがと」

女「はぁ……こんな病気、何でなっちゃたんだろ」

  彼女は自然血液凝固症――俗称”吸血病”という病を患っていて、
 定期的に同じ型の血液を摂取しないと死に至ってしまう。
 さらに彼女の血液型はボンベイ型(人口比0.01%程の特殊なO型)であるため、摂取が非常に困難なのだ。

女「ホント、男君がいてくれて良かったよ」

男「うるせえ」

 症状が現れてからは病院で生活をしていたらしいが、
同じ血液型であり同年代でもある俺の存在を知って、近くに越してきた。
入院費など色々な事を考えての事だという。

女「そんな照れなくてもいいのにー」

男「照れてねえよ。血吸ったんだからさっさと寝ろ」

女「りょーかいでーす」



41:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/04/26(木) 01:30:19.17 ID:jOifLYV/o

女「♪~~」

男「はぁ……」

  こいつとの付き合いは、もう3年近くになるがまだ慣れない。
 毎日振り回されてばかりだ。

女「あっ」

女「あぁぁぁぁああああああ!」

男「どうした!?」

女「反省文……忘れてた」

男「……」

男「俺もだ。すっかり頭から抜けていた」

  今日の就寝は遅くなりそうだ。
 重い足取りで机に向かうと、紙とペンを手にした。



42:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/04/26(木) 01:31:17.34 ID:jOifLYV/o

 そして朝――

男「だ、だるい……」

女「私も……」

  お互いの書いた文章についてやいやい言っている内に、朝を迎えてしまったのだ。

男「お前が変なこと言わなけりゃすぐ寝れたのに」

女「ひどっ。男君だって私の書いた文にケチ付けてきたじゃない」

男「『クモが肩に付いてると嘘を言われました』なんて書く必要ないだろ」

女「そっちだって、そっちだってさ、『女さんが生理だった』とかありもしない事……」

男「ただの冗談だろ」

女「私のだって冗談だよ」

男「……ちっ」

女「うぅ~」



43:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/04/26(木) 01:32:28.31 ID:jOifLYV/o

母「はいはい、朝から痴話喧嘩しない」

男「痴話じゃねえよ」

母「生理とか聞こえたけど」

男「どうでもいいだろ」

  この母親はいつも俺たちの事に口を挟んでくる。
 吸血に関しての保証人でもあるから、仕方ないかも知れないが。

母「ごめんね、女ちゃん」

女「いえ、私も悪いので……ごめんね、男君」

  結局、こうして彼女が謝ることになるのだが……
 この女に上目遣いで謝罪されたら、どうも許してしまう。
 ずるい女だ。

男「いや……こっちも……悪かった」

母「決まりの悪い返事ね。男の癖に」

男「ほっといてくれ」



44:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/04/26(木) 01:33:30.61 ID:jOifLYV/o

母「朝、トーストで良い?」

女「はい」

男「マーガリンで」

男「おっと、牛乳、牛乳」

  俺は冷蔵庫から牛乳パックを取り出す。

  特濃4.5!!

  液体は濃ければ濃いほどいい。
 場合にもよるが。

男「お前もこれでいいよな」

  パックを持ち上げ軽く振る。

女「うん、おねがい」



45:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/04/26(木) 01:34:45.54 ID:jOifLYV/o

…………
……

男「そろそろ出るか」

女「そだね。そうしよう」

  まだ登校には早い時間だが、反省文の提出の事も考えて早めに出る事にしたのだ。
 朝の気だるい気分がまだ心に居座っているが、今日ばかりは仕方ない。

男「じゃ、いってくる」

女「いってきます」

母「ん~、いってらっしゃい」

  だらしない調子で返す母親に少し失笑しながらも、俺たちは家を出た。



46:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/04/26(木) 01:35:23.24 ID:jOifLYV/o

女「んん~、涼しい」

男「ああ、ちょうどいいな」

  外では気持ちの良い風が町を撫ぜるように吹いていた。
 そんな朝の空気に触れて気分が少し晴れる。

女「男君」

  返事をする代わりに、彼女の方を見やった。

女「今日も一日頑張ろうね」

男「……授業聞くだけだろ」

  彼女のつまらない言葉に肩を落とす。

女「違うよ。人生、毎日が戦も同然だよ」

男「何が戦だ。平成だぞ、戦国時代じゃないぞ」

女「分かってないね、男君は」

男「お前がどういう奴なのかよく分からん」



47:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/04/26(木) 01:36:02.35 ID:jOifLYV/o

女「む。そろそろ分かってよ」

男「まだ、3年だぞ」

女「”もう”3年だよ。私、男君と会えて本当に良かったと思ってるんだよ」

男「は――」

 こいつは恥ずかしい台詞も簡単に口に出すから、困る。
逆にこっちが恥ずかしい気分になってしまう。

女「あ、今照れた」

男「照れてねえよ」

女「うぅん、照れた照れた。ほっぺも赤くなってるよ」

 頬に手を伸ばし確認しようとして思いとどまる。
どうせ『確認したって事は……』と言われるのが落ちだ。
仕方が無いので、足を速めて前に出た。

女「あ、待ってよ。男君!」



48:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/04/26(木) 01:37:09.12 ID:jOifLYV/o

…………
……

男「ふぅ……これで大丈夫だろう」

女「だね」

  反省文を提出し終えた俺たちは教室で一息ついていた。
 中途半端に早い時間のためか、教室に居るのは俺たちだけだった。

女「誰もいないね」

男「まだ朝練やってる時間だしな」

女「ドキドキするね……」

男「しねえよ」

女「……」

男「……」

  こいつが変な事を言ったせいで、変な雰囲気になってしまった。
 どことなくむず痒い気持ちが沸いて出てくる。



49:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/04/26(木) 01:39:23.04 ID:jOifLYV/o

女「男君の席いただきー」

男「おい、勝手に座るな」

女「やっぱり、他より席より座り心地良いかも」

男「そんな訳ないだろ」

女「本当だよ。ほら、座ってみなよ」

  彼女は身体を半分ほどずらし、椅子の余った部分をぽんぽんと叩いた。

男「どれどれ」

  恐らくは『どけっ』というツッコミ待ちなのだろうが、ここは敢えて言われるがままに腰を下ろす。

女「……ほ、ほんとに座るんだね……ちょっと恥ずかしいね、この状況」

  してやったり。
 と言いたい所だが、実際この状況は恥ずかしい事この上ない。
 静かな教室で身を寄せ合うなんて、まるで俺たちが恋仲にあるみたいじゃないか。

男「そろそろ――」

  そう言いかけた時、教室のドアが音を立たてて開いた。



50:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/04/26(木) 01:40:15.13 ID:jOifLYV/o

A子「あぁ~、練習疲れ……た……?」

E子「ちょっと、どうしたの? ……って、え?」

  教室へやってきたクラスメイトたちと目が合う。
 暫くの間なんとも言えない沈黙が続いたが、ふと彼女達が大きな声を上げて緊張を解いた。

A子「す、すいませんでしたぁぁ!」

E子「出直してきます!」

男「……」

女「……」

男「まあ、いいか」

女「いいの?」

男「流石に言い触らしたりはしないだろ」



51:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/04/26(木) 01:43:07.98 ID:jOifLYV/o

 ――前言撤回。
 全くいいことなんて無かった。

『あの二人、やっと付き合ったのか』『むしろ、今まで付き合ってなかったの?』
『朝早くから教室で……きゃー!』『昨日、先生に止められてたからねー』『ああ、それでか』

  昼休みを迎える頃には、女子を中心に俺たちの話題で持ちきりになってしまっていた。

男「うぜえ」

女「……恥ずかしいね」

  そう言って、彼女は顔を赤く染める。
 気のせいかも知れないが、最近はこの顔を見る機会が増えた気がする。

男「うるさいし、昼は外で食うか」

女「わ、私も一緒でいい?」

男「だめだ」

女「あ……うん、分かった。……ごめんね」

  いつもならケチだのなんだの言いながら付いてくるのだが、
 今日はあっさりと引き下がってしまった。
 彼女はパンを鞄から取り出すと、うつむく様にして教室を後にする。

男「……ちっ」

  居心地の悪くなった俺は、急いで彼女の後を追った。



52:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/04/26(木) 01:45:00.46 ID:jOifLYV/o

女「はぁ……」

 昨日座ったベンチを訪れてみると、そこには予想通り彼女が腰掛けていた。

男「よっ」

女「えっ、なんで……」

 俺に気付いた彼女は、驚嘆の声を漏らした。

男「さっきのは冗談だ」

女「冗談……」

男「あれくらい普通だったじゃないか」

女「でも……」

男「へたれめ」

女「へたれって……でも、良かったぁー」

女「そろそろ鬱陶しくて、嫌われたのかと思ったよ」

 まあ、確かに……

男「鬱陶しいけどさ」

男「嫌じゃあない」



53:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/04/26(木) 01:46:02.13 ID:jOifLYV/o

女「それ聞いて安心したよ」

男「飯食おう、飯」

女「うん……って、男君、朝買ったパンは?」

男「お、教室に置きっぱなしだな。ちょっと待っててくれ」

女「あ、大丈夫」

 彼女は俺を呼び止めると、パンを差し出す。
それも食べかけのパンをだ。
これはいわゆる間接キスというやつになるんじゃないか。

男「これ、かじってるだろ」

女「でも、美味しいよ?」

 こいつは間接キスなんかは気にしないのだろうか。
下らない事で一丁前に照れるくせに、案外適当なのかもしれない。

男「それじゃあ、少しだけ」

 ここで退くと負けたような気がするので、素直に貰っておこう。
……なぜかデジャビュを感じるが。



54:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/04/26(木) 01:47:08.17 ID:jOifLYV/o

男「んむ……確かに美味い」

女「うんうん。たまに買うんだけどすっごく美味しいんだ」

  そう言って彼女は、俺が口にしたパンを構わずひとかじりする。
 なんだか間接キスだの気にしていた自分が馬鹿らしく思えてしまった。

女「ん、まだ欲しい?」

男「……」

男「ああ」 

女「はい、どうぞ」

  俺たちは全てのパンがなくなるまで、こうして昼を過ごした。



55:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/04/26(木) 01:48:20.57 ID:jOifLYV/o

…………
……

男「そろそろ、教室も静かになってるだろ」

女「そうだね」

男「ああ、パン、ありがとうな」

女「あ、うん」

女「実はね……か、間接キスの時、心臓止まりそうだった……」

男「は――」

女「うん……」

男「し、知るか。こっち見んな!」

女「照れてる」

男「ちっ……早く、教室戻るぞ」



66:>>55より:2012/04/27(金) 23:01:26.26 ID:U419ypkBo

 他人の話なんて数時間もすれば飽きる。
少なくとも俺はそう思っていたのだが、それはどうやら間違いであったようだ。

男「まだ続いてるのかよ……」

 教室では俺たちの事について話す声があった。
むしろ、先より酷くなっているようにも感じられる。

男「飽きない奴らだな」

女「あの、男君……」

男「なんだ」

女「さっきの……見られてたみたい」

 彼女は少し はにかんだ様子で言った。

男「さっきのって、パンの事か?」

女「そうみたい……」

男「……」

 しかし、起こってしまったものは仕方ない。
放課後まではそう遠くないし、ここは開き直っておこう。



67:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/04/27(金) 23:02:14.06 ID:U419ypkBo

男「……」

 女の方に目をやると、クラスの女子数人が彼女の周りを囲んでいた。
恐らく色々と尋問を受けているのだろう。

男「お」

女「あ」

 ふと目が合う。
彼女はこっちに向けて軽く手を振ってくるが、
小恥ずかしいので無視をする。

 そうすると彼女は一瞬拗ねた様な表情を見せたが、
すぐにクラスメイトとの会話に戻った。

男「あー」

 そう言えば、俺には誰も聞いてこない。
悲しい事か嬉しい事かよく分からないが、
今はポジティブに受け止めておくことにする。



68:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/04/27(金) 23:03:20.50 ID:U419ypkBo

 あれからは特に何もなく、放課後を迎えた。
今日は女と一緒に帰るかどうか悩んだが、
彼女はクラスメイトたちと談笑をしているようだった。

 今日は吸血が必要な日ではないし、1人で帰ることにしよう。
鞄を肩に掛けると、俺は教室を後にした。

~~~~

E子「あ、男君出てったよ」

A子「本当だ」

E子「ごめん、話しすぎたね。追いかけた方がいいんじゃない?」

女「んー、ごめんね、そうするよ」

E子「んじゃ、ばいちゃ」

女「うん、またね」

A子「ばいばーい」

~~~~



69:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/04/27(金) 23:04:13.91 ID:U419ypkBo

女「男くーん!」

 下駄箱で靴を履き替えていると女の声が聞こえた。

 声は聞こえた方からは走ってくる彼女の姿が見える。

男「別にあのまま話してても良かったんだぞ」

女「はぁ…はぁ……だ、だって……男君と一緒に帰りたいし」

男「……そうかよ」

女「うん」

男「今日はどうするんだ」

女「昨日と大体同じかな?」

 昨日と同じということは、また俺の家に来るのだろう。
もう二週間近く通いづめ状態だぞ。

男「お前、本当そろそろ家帰れよ」

女「だって、だってさ」

男「だって、なんだよ」

女「だってー♪ だってってー♪」

男「歌ってごまかすな」

 軽く頭を叩いてやる。

女「あたっ。べ、別に叩かなくても」



70:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/04/27(金) 23:05:29.90 ID:U419ypkBo

男「お前のよくない癖だぞ。ごまかすの」

女「うぅ~」

 大分前の話になるが、彼女と初めて会った時、彼女は俺の血を吸うのを拒んだ。
何かと言い訳をつけては俺の前から逃げて、血を飲もうとしなかったのだ。
結果、血液の凝固が始まってしまい、病院に再送されるという事故が起こってしまった。

男「昔の話だがな」

女「何の話?」

男「なんでもない」

女「そう……でも、そうだね。近い内になんとかするよ」

男「まあ、頑張れよ」

 こいつが新妻さんとの生活を避ける気持ちも分かる。
この病気は決して世間に良く思われている訳でないからだ。
血を飲むと聞いて、良いイメージを持つ人は少ないだろう。
病気の事を知ることで父と新妻さんの仲に影響がないか心配しているのだと、前に漏らしていた。

男「別に気にしない人はしないと思うんだがな。
  それにおじさんが既に話してるんじゃないか?」

女「わかんない」

男「分かっとけ」

 再度手を頭にこつんと当てる。

女「あたっ……男君のいじわ――あたっ」



71:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/04/27(金) 23:06:54.57 ID:U419ypkBo

男「ただいま」

女「ただいまー」

 母からの返事はないが、買い物にでも出掛けているのだろう。

女「ねえねえ、男君」

男「何だ」

女「今思ったんだけど、私って通い妻みたいじゃない?」

男「……いや、妻じゃねえから」

女「じゃあ……通い淑女?」

男「淑女でもないだろ」

女「えー、淑女だよー!」

男「淑女ってのはな、淑やかで上品さの窺える女性のこと、を言うんだ。
  お前はただの馬鹿だ。頭の弱い子だ」

女「酷い言われよう……しかもそれ、こぴぺ、したでしょ。」

男「アホな事言ってないで、部屋行くぞ」

女「ごまかしたね」



72:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/04/27(金) 23:08:31.69 ID:U419ypkBo

男「はぁ、今日は疲れた」

女「布団!」

 こっちの気持ちも知らず、彼女は部屋に入るとすぐに俺の布団に身を横たえた。

女「あ~、やっぱり気持ちいい~」

男「おい、俺の布団汚れるだろ」

女「男の子が細かいこと気にするの、よくないよ」

 こいつ、今日はやけに行動が大胆になっているような気がする。
……気のせいかも知れないが。

女「すぅ……男君の匂いがする」

男「変態か、お前……お前の制服嗅ぐぞ」

女「んー、どうしてもって言うなら……うん、いいよ」



73:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/04/27(金) 23:10:58.79 ID:U419ypkBo

男「は――」

 彼女はそう言うと、布団の上に仰向けになる。
これはそのまま――着たまま嗅げということか?

 こいつは頬を赤くしてじっとしたまま、俺のことを見るだけだ。

男「……」

 普段ならこんな馬鹿馬鹿しい事は適当にあしらって
そこで終わりになるはずなのだが、

 今日の出来事に気をおかしくしたのだろうか。
あるいは変な風に打たれてしまったのだろうか。

 俺は彼女に近づくと、またがる様にして四つんばいになる。
自分でも変だとは思うのだが、なぜか行動が先走ってしまった。

男「……それじゃ」



74:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/04/27(金) 23:12:06.60 ID:U419ypkBo

 彼女のおなか辺りに顔を寄せて、一思いに息を吸い込む。

男「……お前の匂いがする」

女「……あたりまえだよ」

 そのまま腋や首元に鼻を這わせ匂いを嗅ぎとる。
傍から見れば、いかがわしい行為をしているようにしか見えないのだが、
そんなことを気にする余裕は持ち合わせていなかった。

女「か、嗅ぎすぎだよ……」

男「嫌いじゃない匂いなんだ。我慢しろ」

女「うぅ……」

 恥ずかしがる彼女を見ていると、余計に感情が高まった。
顔を身体から離して彼女に呼びかける。

男「ちょっと腰浮かせてくれ」

女「こ、こう……? ……って、ぅ、ん」

 空いた隙間から彼女の背中に手を回す。
腕に力をいれて彼女の身体を引き寄せるようにして、顔を強く押し当てた。
鼻が塞がれて匂いなど感じなかったが、とても柔らかい感触がした。

 やはり俺はどうにかしてしまったのだろう。
平生の俺ならこんな事に乗るはずが無い。するはずが無い。
しかし、今こいつを目の前にすると、こうせずにはいられなかったのだ。
ただそれだけの事だ。



75:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/04/27(金) 23:13:31.39 ID:U419ypkBo

女「男君……くすぐったいよ」

男「……」

 俺は応えず、そのまま続ける。

女「んっ……ぅあ、ん……」

 彼女は息を荒げながらも、抵抗することなく俺に身を委ねる。
俺自身も最早自分を止められる状態にはなかった。

男「お前の身体って、こんなに柔らかかったんだな」

女「そ、そうかな」

男「ああ、こんなに柔らかいものは触った事が無い」

女「ちょっとイヤラシい発言だね」

男「何をいまさら」

女「男君もこんなに積極的になるんだ」

男「お前が血飲む時も似たようなもんだ」

女「じ、自覚なかったよ……」

 お互いに完全にのぼせ切ってしまっている。
このままではどこまでいくか、分からなかった。



76:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/04/27(金) 23:14:21.35 ID:U419ypkBo

 そんな不安を抱き始めた時、俺たちを制するように部屋まで声が聞こえた。

母「ただいまー」

男「お」

女「っ!」

 俺たちは身を離すと、急いで身なりを整えた。
先の変な雰囲気を残しているせいか、お互いに口を開けなかった。

女「わ、私、リビング行ってくる!」

男「お、おう」

 彼女はそう照れくさそうに言い残してリビングへと向かった。

男「……」

 俺はどうすればいいのか分からず、布団に横たわるとぼうっと天井を見ているしかなかった。



77:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/04/27(金) 23:14:56.43 ID:U419ypkBo

…………
……

男「ごちそうさま」

 夕飯を食べ終えて部屋に戻ろうとした俺を母が呼び止めた。

男「なんだ」

母「あんた、あの子と喧嘩でもしたの?」

 食事中、会話どころかろくに目も合わさなかった事に疑問を抱いたのだろう。
誰が見ても気付く異変に母が気付かないはずがなかった。

男「喧嘩というわけじゃ……」

母「じゃあ、逆? ついに恋人になった?」

男「ち、違う」

母「何どもってんの。怪しいわよ」

男「……部屋に戻る」

母「あ、ちょっと待ちなさい」

 俺は母の声を無視すると急ぎ足で部屋に戻った。



78:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/04/27(金) 23:16:00.89 ID:U419ypkBo

女「あ」

 部屋では彼女が布団の上で寝転んでいた。
どうもご飯前の出来事を思い出してやりづらい。

男「……布団汚れるだろ」

女「ご、ごめん」

男「ベッドいけばいいだろ、なんで俺の布団なんだ」

女「男君の匂いするし……」

 彼女の言葉を聞いて少し照れくさい気分になる。

男「だからってな」

女「お風呂、入ってくるから。それなら……」

男「好きにしろ」



79:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/04/27(金) 23:17:27.24 ID:U419ypkBo

…………
……

女「お風呂上りはサイダーだね」

男「昨日は牛乳って言ってただろ」

女「日替わりです」

男「変わんのかよ」

女「日替わり淑女です」

男「お前、どれだけ淑女に憧れてるんだ」

女「淑女好きです」

男「……変な意味に聞こえるぞ」

女「男君……の匂い好きです」

男「うぜえ」

女「照れてる男君ってかわいいよね」

男「だまれだまれ」



80:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/04/27(金) 23:19:19.58 ID:U419ypkBo

 サイダーのビンをからっぽにした彼女は俺の布団で横になる。

男「今日のお前、色々おかしいぞ」

女「男君もけっこう変だったよ」

 そんな事言われなくても分かっているんだが、
この変化を認めたくはなかった。

 昨日、大人しく廊下にいれば……
なんてことも考えたが、今更どうしようもないのだ。

男「お前が変な事言うからだろ」

女「いつも適当に聞き流してる癖に」

男「とにかく」

 少し声を張って場を引き締める。

男「明日は気をつけよう」

 自分に言い聞かせるように口にした。

女「うん……心臓に良くないもんね」

男「じゃ、俺も風呂入ってくる」

女「うん」



81:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/04/27(金) 23:20:49.60 ID:U419ypkBo

…………
……

母「ちょっと」

 風呂から上がったところで、再び母親に声を掛けられた。

男「なんだ」

母「止める訳じゃないんだけど、ひとつだけ言わせてもらうわ」

 もったいぶった調子で言う。
こんな前置きする時は、大抵ろくでもない事を言う時だ。

男「なんだよ」

母「あの子と付き合っていくなら、それ相応の覚悟がいるわよ」

 予想通りろくな話ではなかった。

母「二人だけでやっていくなら良いかも知れないけど、
  病気も血液型も遺伝する以上、しっかり考えないと――」

男「残念、そんな予定はねえよ」

 付き合うだとか子供だとか、考えなかった訳じゃない。
しかし、そんなこと今は考えたくなかった。
自分でも自分がどう思っているか分からないのだ。



82:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/04/27(金) 23:21:48.55 ID:U419ypkBo

…………
……

 ベッドでは既に女が眠りについていた。

男「はぁ……」

 今日は今までにないくらい疲れた。
いや、こいつと初めて会った日も相当くたびれたような気もする。
とにかく、今日は早いうちに寝てしまおう。

男「お」

 布団に入ると、夕刻に嗅いだのと似た匂いを感じた。
石けんの香りも混じっているが、恐らく女の匂いだろう。

 女の方を見る。
彼女は寝息をたてながら気持ち良さそうに眠っていた。
こうして見て見ると、かなり綺麗な顔立ちをしている。

男「――!」

 動悸を感じた俺は彼女の顔から目を逸らした。

男「……ちっ」

 布団に潜るが、いまだ彼女の匂いがする布団の中で、脈はますます早まる。
どうしようもない状況で、俺は自分の気持ちに気付き始めていた。



91: ◆1muWEKgdtE:2012/04/29(日) 05:29:43.36 ID:TK9PbVRro

…………
……

?「男くーん」

男「ん……」

 この声は女か。
母親は俺のことを起こしに来ないし、彼女以外にはあり得ない。
沸き立つ眠気を抑え、重いまぶたを開いた先には、やはり微笑む彼女の顔が見えた。

女「おはよ。男くん」

男「ッ――!」

 どアップで映った彼女の笑顔に驚き、俺は慌てて退けた。

女「そんなにビックリしなくても……」

男「ああ、いや。すまん」

 心臓が激しく脈を打つ。
この感じは、やはりそう言う事なのだろうか。

 自分でも顔が少し紅潮しているのが分かる。
それに気付いたのか彼女もほんのりと顔を赤らめた。

女「……」

男「……」

 沈黙が二人の間を満たす。
窓の外から届く小鳥のなき声だけが聞こえている。
こう言う時、どんな言葉を出せばいいのだろうか。
考えをめぐらせるが、今ひとつこれという答えが出ず、頭を掻いて誤魔化すだけだった。



92: ◆1muWEKgdtE:2012/04/29(日) 05:30:48.39 ID:TK9PbVRro

女「あ、明日は普通にしようね……」

 ふと、彼女が出し抜けにそうつぶやいた。

男「そ、そうだな。それは大事だ」

 会話が生まれたことで、場の空気は若干和らいだのだが、
彼女の言葉は昨日の出来事を鮮明に思い出させてしまう。

……
…………
………………
……………………

女『やっぱり、他より席より座り心地良いかも』

女『本当だよ。ほら、座ってみなよ』

男『どれどれ』

女『……ほ、ほんとに座るんだね……ちょっと恥ずかしいね、この状況』
----------------------------------------------------------------------
女『ん、まだ欲しい?』

男『……』

男『ああ』

女『はい、どうぞ』
----------------------------------------------------------------------
男『……お前の匂いがする』

女『……あたりまえだよ』

女『か、嗅ぎすぎだよ……』

男『嫌いじゃない匂いなんだ。我慢しろ』

女『うぅ……』

男『お前の身体って、こんなに柔らかかったんだな』

女『そ、そうかな』

男『ああ、こんなに柔らかいものは触った事が無い』

……………………
………………
…………
……



93: ◆1muWEKgdtE:2012/04/29(日) 05:31:43.68 ID:TK9PbVRro

男(だああああぁぁぁぁぁああああああああ!!)

 俺は滲み出る恥ずかしさで床を転げ回る。

男(あ、あんなのは、俺じゃあない!)

男(俺の皮かぶった別の何かだ!)

 現実逃避甚だしく、心の中で必死に言い訳をする。
無意味な事だとは理解していても、こうせずにはいられなかったのだ。

女「お、男くん、大丈夫?」

 突然取り乱した俺に彼女が心配そうに声をかけてくれる。

男「ぐっ…………!」

男「……」

男「あ、ああ……もう大丈夫だ……」

 彼女のお陰で、なんとか落ち着きを取り戻す。
しかし、それと同時に、彼女に対して抱く感情を確かに認識してしまった。

女「じゃあ、リビングいこ。朝ごはんできてると思うよ」

男「ああ、そうだな」

 ごく自然に答える。
認めてしまえば、どうという事はなかった。
問題はこれからどうするかであるが、それはご飯を食べてから、ゆっくり考えよう。
俺はそっと立ち上がると、彼女を追って部屋を出た。



98:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/05/02(水) 00:05:07.08 ID:nPUC8axTo

…………
……

男「はぁ……」

  学校へと続く道中、俺は無意識の内にため息をついてしまう。
 その原因は分かっている。

女「男くん、どうしたの?」

  こいつだ。
 何がそうさせたのか、俺はこいつに心を惹かれてしまったのだ。

女「男くーん。考えごと?」 

  それだけなら良いのだが、3年とは言え短くない期間を共に過ごしてきたため、
 今更どう接すれば、切り出せばいいのかが分からない。
 そういう訳で、非常に思い悩んでいるのだが……

女「おーい」

  そんな気を知ってか、あるいは知らずにか、
 今も彼女は隣でうるさく話しかけてくる。

女「……」

女「よっと」

男「と――!?」

  唐突に彼女が腕を絡ませてきた。

男「い、いきなり何だよ」

女「ぼうっとしてたし、気付かないかな、と思って」

男「流石に気づくだろ」



99:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/05/02(水) 00:05:21.81 ID:nPUC8axTo

…………
……

男「はぁ……」

  学校へと続く道中、俺は無意識の内にため息をついてしまう。
 その原因は分かっている。

女「男くん、どうしたの?」

  こいつだ。
 何がそうさせたのか、俺はこいつに心を惹かれてしまったのだ。

女「男くーん。考えごと?」 

  それだけなら良いのだが、3年とは言え短くない期間を共に過ごしてきたため、
 今更どう接すれば、切り出せばいいのかが分からない。
 そういう訳で、非常に思い悩んでいるのだが……

女「おーい」

  そんな気を知ってか、あるいは知らずにか、
 今も彼女は隣でうるさく話しかけてくる。

女「……」

女「よっと」

男「と――!?」

  唐突に彼女が腕を絡ませてきた。

男「い、いきなり何だよ」

女「ぼうっとしてたし、気付かないかな、と思って」

男「流石に気づくだろ」



100:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/05/02(水) 00:07:23.19 ID:nPUC8axTo

女「だよね……」

男「ああ」

女「嫌がらないんだね……」

男「……たまには……悪くないんじゃないか」

女「……」

男「……」

  彼女は気恥ずかしそうに、顔をうつむかせる。
 そんなそぶりを見て、自分もこそばゆい気持ちになってしまった。

女「うん……」

  腕がより強く締め付けられた。
 同時に、彼女の頭がちょこんと俺の肩に乗せられる。
 真っ直ぐに伸びた髪が、服の上を上を撫ぜる。

  どきっ――

  心臓が跳ねるように高鳴った。

男「お、おい。このまま行くのか」

女「男くんが……良いなら、だけど」

  俺は回答を返すことが出来ず、黙って道を進む。

  これじゃあ、誰がどう見てもカップルじゃないか。
 ……いや、それは合っているのか?
 しかし、お互いにまだ想いを口にはしていないぞ。
 俺は少し混乱してしまう。



101:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/05/02(水) 00:08:05.91 ID:nPUC8axTo

  一人で思案していると、彼女が口を開いた。

女「あのね……男くん」

  彼女は真剣な眼差しで俺を見つめる。
 これはあれなのだろうか。
 だが、こういうことは男の方から言わなければならないのではないだろうか。

  変な緊張が身体を強張らせるが、
 俺は固唾を呑んで、彼女の話の続きを待つだけだった。

女「あの……今日こそ、会いに行こうと思うから」

男「……」

男「そ、そうか、やっとか」

  予想と違う言葉を前に、安心しながらも少し気落ちする。

女「うん、やっとだね」

男「頑張れよ」

女「それで、男くんも……付き添ってくれたら嬉しいんだけど……」

男「ああ、それくらいなら」

  彼女が新妻さんに会うのを決心したのは喜ばしいのだが、
 おかげで話すタイミングを逃してしまった。
 もちろん、それがなくても打ち明けられていたとは限らないのだが。

  まあ、無理だっただろう。
 学校も近いし、今のところは諦めるしかない。



102:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/05/02(水) 00:08:43.55 ID:nPUC8axTo

女「そ、そろそろ……放すね」

  もうじきに校門が見えてくる頃で、周りにもちらほら生徒の影が見えた。
 少しもどかしい感じもするが、仕方が無いことだ。

  彼女は最後に一瞬強く腕を握りこんだ後、そっと腕を抜き取った。

女「ふぅ……、あ、ありがとう」

男「別に……」

  彼女の方を一瞥すると、ちょうど彼女もこちらを見ていたようで視線が重なり合った。
 彼女の目がとても綺麗な色を魅せているのに気付く。
 目だけではなく、耳や唇や少しばかり目にかかった髪の毛など。

  それらは見慣れていたはずのものだったが、今改めて見てみると、
 どれもが不思議な吸引力を持っていて目を奪われてしまう。

女「男くん……あんまりじっと見つめられると……」

男「わ、悪い。……でも、よく見ると結構可愛いよな」

女「か、かわわわわ!? わ、私が?」

男「他に誰がいるんだよ」

女「だ、だって、男くんに初めて言われたし」

男「……口がすべった」

女「う、うん……」

男「…………早く行くぞ」



103:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/05/02(水) 00:10:01.91 ID:nPUC8axTo

女「~~♪」

男「ご機嫌だな」

  靴箱に辿りついたところで、彼女に話しかける。

女「か、かわいいって……言ってくれたし」

女「つまり、私が淑女ってことだしね」

男「それはない」

女「えぇー、なんで?」

男「可愛いと淑女は違うだろ」

女「一緒だよ。ティッシュとハンカチくらい一緒だよ」

男「結構違うな……それより、何でお前は淑女に拘るんだ」

  前々から気にはなっていたものの、理由は聞いていなかった。
 大方、下らない理由なのだろうと思っていたし。

女「んん~、約束?」

男「誰とだよ」

女「ちょっとした知り合い……かな」

男「分からねえよ」



104:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/05/02(水) 00:12:22.29 ID:nPUC8axTo

E子「やあ、お二人さん。今日も仲が宜しいようで」

A子「おはよう」

  教室へ向かう途中で、E子とA子と合流する。

女「おはよー、二人とも」

E子「ところで、二人はどこまで進展してるの?」

女「し、進展って、そんなしてないよ」

E子「腕まで組んでて?」

女「み、見てたの?」

E子「ばっちり、どちっり」

A子「わたしも見たよ」

女「うぅ~、恥ずかしい……」

E子「で、本当のところは?」

  次にE子は俺に話を振ってくる。

男「知らん」

E子「えー、言ってくれてもいいじゃない」

  E子は、けちー、と言うと再び女と放し始める。

  ふと、廊下の天井に釣られたアナログ時計が目に入る。

男「……もうちょいでチャイム鳴るぞ」

A子「あ、本当だ」

E子「誰のせいだ!?」

男「お前だよ」

  俺たちは馬鹿な会話をやめて、小走りに教室へと向かった。



108:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/05/03(木) 07:20:24.66 ID:n5QgXt7uo

…………
……

  俺たちに関する話題もすっかり収束していたようで、
 A子たちを除いてそのことを喋る者はみられなくなっていた。
 (E子は相変わらず、しつこく聞いてきたが。)

  女とも、朝と同様の、日ごろとは違う妙な距離感のまま時間を共にし、
 なんだかんだしている内に放課後を迎えてしまった。

  放課後は俺の家には帰らずに、直接女の家に行くことになっている。
 新妻さんと打ち解ける――もとい”血吸”について打ち明けるためだ。

  俺自身、女に対して抱いた気持ちをどうすれば良いのか、まだ分かっていないのだが。
 しかし、考えようによっては良いタイミングなのかも知れない。
 彼女がこの事を解決することで、こちらとしても
 想いを伝え易くなることになるだろう。

  そんなわけで、いつもとは違う道を歩いているのだが……

男「おい、腕に絡むな」

女「もうちょっとだけ」

  こいつは性懲りもなく、過剰なスキンシップを取ってくる。

男「カップルじゃないんだぞ」

女「そうだけど、好きなんだよ」

男「す、好きだぁ!?」

女「え、あ、んと……腕が! 男くんの腕が!」

男「そういう事か」

女「そ、そういうことだよ」



109:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/05/03(木) 07:22:02.40 ID:n5QgXt7uo

  よく考えなくても色々と無理のある言い訳なのだが、
 気分の悪くなることではないので、
 ”そういうこと”で構わないだろう。

  学校を出て20分程経ったとき、見覚えのある家が目に映った。

  和と洋の混ざりあったような外観をした、今ではどこにでもありそうな家。
 その家の表札には彼女の苗字が彫られていた。

  彼女は鍵を取り出して、玄関の施錠を解く。

女「どうぞ、はいって」

男「お邪魔します」

女「って言っても誰もいないんだけどね」

男「仕事か」

女「うん。二人とも8時前だと思うよ。帰るの」

男「まだ5時にもなってないぞ」

女「とりあえず、私の部屋で時間潰そうよ」

  洗面所で手を洗った俺たちは、彼女の部屋へと行く。



110:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/05/03(木) 07:25:52.64 ID:n5QgXt7uo

女「おおー、久しぶり」

  数週間振りの自室に、彼女は嘆声をもらした。

男「俺は3回目くらいか。部屋来るの」

  出会ってすぐに一回、おじさんが再婚して間もなく一回。
 記憶が正しければ、そうであったはずだ。

  それにしても、前にも思ったことだが、彼女の部屋はとても女の子らしい。
 ぬいぐるみなどの布物が多く、俺の部屋とは似ても似つかぬ様相をしていた。
 他人の部屋に上がりこむ事など、あまりないので新鮮である。

女「あれ」

男「どうかしたか?」

女「ホコリが全然ないんだよね」

男「新妻さんじゃないのか」

女「そうかも」

男「良い人じゃないか」

女「そうなんだけど……」

  良い人だからって病気について認めてくれるとは限らない、か。
 後は、単純に気恥ずかしいというのもあるのだろうが。



111:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/05/03(木) 07:26:46.86 ID:n5QgXt7uo

男「何か漫画とか無いか?」

  改めて話すことも無いし――あるにはあるが、それは今日の事が終わってからだ――
 暇になったので、彼女に尋ねた。

女「ん~、『ツナの女』って言うのが面白いよ……はい、これ」

  奇妙な表紙が描かれた本と受取る。
 マグロに囲まれた女性が神妙な表情で上を見つめているという、シュールな絵図だ。

男「これ、本当に面白いのか?」

女「淑女推薦!」

男「当てにならなそうな推薦だな」

女「百発百中だよ」

男「ハズレがか」

女「当たりだよ!」

男「まあ、いいか。お前のセンスの無さを確かめてやる」

女「む。読み終わった後にもう一度その言葉、言えるかな」



112:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/05/03(木) 07:28:11.09 ID:n5QgXt7uo

…………
……

男「……」

  漫画を読み終え、ぱたんと本を閉じる。

男「うん」

  訳が分からない。
 とにかく、展開や内容がシュール過ぎるのだ。

  簡潔にまとめれば、ある軟体動物好きの男がマグロハンターの女将と出会い、
 虜にされてしまうという話。
 であるのだが、虜になった原因が“毎日マグロ料理を食べさせられたから”だったり、
 結局“男はマグロの刺身をも軟体動物のようだ”として好きになったり。

男「お前、センスないよ」

女「えー、面白いと思うんだけどなぁ」

男「ないない」

女「じゃあ、もう一度読もうよ」

男「お断りだ」

女「今なら、私の解説付きだよ」

男「余計ややこしくなるだろ」

女「いいから、いいから」



113:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/05/03(木) 07:29:22.09 ID:n5QgXt7uo

女「ほら、ここだよ。ここで女将の気持ちが変わるんだよ」

男「へぇ」

女「そして! このシーンで男が完全にマグロに墜ちる」

男「ふぅん」

女「……」

男「どうかしたか?」

女「男くん、ちゃんと聞いてないよね」

男「この体勢で集中できるかよ」

  女は俺の背中にもたれ掛かり、後ろから手を回すという姿勢をとっていた。
 その上、彼女の顔が右肩に乗っかっているので、首元付近が軽く痛む。

  それ以上に彼女の匂いや吐息が間近に感じられているせいで、
 どうしても意識がそっちに向いてしまうのだ。

女「もしかして、照れてる」

男「照れてない」

  ただ、ほんの少し恥ずかしいだけだ。



114:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/05/03(木) 07:32:10.57 ID:n5QgXt7uo

男「大体、気軽にこういう事が出来る羞恥のかけらも無いヤツは、断じて淑女ではない」

女「わ、私だって、恥ずかしいんだよ。恥ずかしいけど……」

  ぎゅう――
 彼女が回す腕に力が入る。

  なんだ? さっきから、この女は誘っているのか?
 そもそも、ここ数日の内でこのピンク色に染まった空気を何度味わっただろう。

男「……」

  潮時か。この雰囲気には耐えられそうに無い。
 それに、こうも相手をヤキモキさせるのは、男としての素性が疑われる。
 決心をした俺は、胸に回された彼女の手をそっと掴む。

女「――っ!」

  彼女の腕が強張るのが分かった。
 だから、俺は出来るだけ優しい声で、彼女に声をかける。

男「ええと――」

女「ご、ごめんなさい!」

  そう言った彼女は急に立ち上がると、慌てたように部屋を出ていってしまった。

男「え……」

  一瞬、何が起こったのか分からず、意味も無く部屋の中を見渡した。
 とりあえず、思い巡らしてみたものの原因はさっぱりだ。

男「嫌いなわけでは、ないよな。多分」

  恥ずかしさから、ああなっただけだと思いたい。
 いずれにしろ、新妻さんとしっかり話すためにも、彼女を不安定にさせてはいけない。
 やはり、この事については明日までとっておくべきかも知れない。



115:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/05/03(木) 07:33:21.63 ID:n5QgXt7uo

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
女「はぁ……」

  びっくりしたぁぁぁぁ。
 いきなり、手掴むんだもん。
 でも、自分から振っておいて、ひどい事したかな。

女「あんなに男くんとくっ付いたのは初めてだよね」

  最近の私ちょっと変だな。
 男くんのことはずっと前から好きだったけど……
 嫌われたらどうしよう。

女「あ」

  考えてなかった。
 鬱陶しいって嫌がれるかもしれない。
 じ、自制しないとね。自制。

  ……それに、おばさんが言ってるの立ち聞きしたし。
『病気も血液型も遺伝する以上、しっかり考えないと――』
 私がいるとタダでさえ負担かけちゃうのに。

  やっぱり、淑女にならないとね。
 そのために今は――

女「牛乳飲も」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



116:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/05/03(木) 07:34:16.40 ID:n5QgXt7uo

女「男くん」

  しばらくして彼女が部屋に戻ってきた。

女「そろそろ、帰ってくると思うから……」

男「分かった。リビングいくか」

  彼女の顔から緊張した面持ちが見て取れる。
 俺自身は血吸病ではないし、彼女の気持ちを知ることは出来ない。
 だから、俺は彼女の肩に手を置いてただ言う。

男「リラックスしろ」

女「うん」

  ほんのり彼女が笑顔になったのををみて、俺も安堵する。

男「やっぱり」

女「ん?」

  こいつの事が好きなのだろう。
 大分遅れてしまったが、今日あるいは明日……

  再度心に決めて、俺は彼女に続いてリビングへと着いた。



125: ◆1muWEKgdtE:2012/05/09(水) 01:21:37.06 ID:dzSL6ENDo

…………
……

 玄関のドアが開き、だれかが帰ってきた。
はじめ女は身構えたが、帰ってきたのが彼女の父だと分かると、安心したように肩を落とした。

女父「帰ってたのか。ただいま」

女「おかえり、お父さん」

男「おじさん、お邪魔してます」

女父「男君も一緒だったか。どうしたんだ?」

 久しぶりに自宅に戻った娘を不思議に思ったのだろう。
それに今日は俺まで付いて来ている。
父親としては色々考える事があるのだろう。

女「えと、新妻さんと話、したくて」

男「付き添いです」

女父「なんだ、そういう事か」

 まるで思いつきもしなかったかのように答える。

女「なんだって……大事な事だよ」

女父「もう男君の家に居候するのは辞めるのか?」

女「それはまだ、分からないよ」

女父「すまないね。男君」

男「いえ、大丈夫です」



126: ◆1muWEKgdtE:2012/05/09(水) 01:22:04.59 ID:dzSL6ENDo

女父「あと、何を気にしているのか、気を使っているかは知らないが」

  おじさんは女の方を向いて言葉を続ける。

女父「彼女は病気の事を既に知っているぞ」

  場の空気が一瞬にして固まる。
 女を横目で見ると、面食らって凍りついていた。

  幾秒か過ぎたころにようやく女が口を開いた。

女「え……」

女「えええぇぇっ?」

女「お、お父さん、言ってあったの?」

女父「いいや。そもそも――」

  おじさんが言いかけた時、再び玄関の方で音がなった。

??「ただいま」

  この声は新妻さんだ。
 新妻さんはリビングまで来るやいなや、目を丸くして声を漏らした。

新妻「なっ……女ちゃん?」

女「こ、こんにちは」



127: ◆1muWEKgdtE:2012/05/09(水) 01:22:26.81 ID:dzSL6ENDo

新妻「どうかしたの?」

女「あの、私の病気のこと……」

新妻「ええ、知ってるわ……よく知ってる。
  もしかして、その事を気にして?」

女「他にもあるんですけど、一番はそれです」

新妻「だったら、早く言っておけば良かったわね。ごめんなさい」

女「私の方こそなんだか、逆に気を使わせてしまったみたいで……」

新妻「それじゃあ、わたしの事が嫌いとか、そういうのはないのね?」

女「はい」

新妻「それで、病気の話だけど、私の事覚えてる?」

女「えっと……」

新妻「はぁ。流石に忘れてるか……」

女「どこかで会った事あるんですか?」

新妻「ええ、病院で」

新妻「あ、そうだ。淑女になれたかしら? 女ちゃん」

女「まだ――って、え? 新妻さんって」

新妻「久しぶりね、なっちゃん」



128: ◆1muWEKgdtE:2012/05/09(水) 01:23:04.57 ID:dzSL6ENDo

…………
……

  その後、一通りの話を済ませて、部屋に戻った。
 予想外の事実が発覚したが、お陰で彼女もすんなりと話をすることができたようだ。
 今日からは、お互い元の生活に戻ることになった。
 それは少し寂しい気持ちもするが、改めて彼女との距離を量るにはいいかも知れない。

女「同じ名前だと思ってたけど、偶然じゃなかったんだ」

男「それで、どういう関係なんだ?」

女「昔ね、私が病院にいた時のナースさんで、色々お世話になってたんだよ。
  ちょうど、お母さんが死んじゃってすぐだったし……」

男「ああ、そうだったのか」

女「うん。“なっちゃん”って呼んで優しくしてくたんだ」

男「名前の最後が……」

女「そういうこと」

  俺はこれまでずっと呼び捨てだったし、他の人たちより親しい呼称だと思っていたが、
 どうやら上には上がいるようだった。
 そんなわけで、若干の嫉妬の気持ちも含めて悪戯をしてやることにした。

男「なっちゃん」

女「なっ!?」

男「おーい、なっちゃん」

女「~~~~!」

  俺の言葉が大分効いているようで、彼女の顔は耳の方まで赤く染まっている。
 しかしながら、俺自身も声に出すのにかなり照れてしまっている。



129: ◆1muWEKgdtE:2012/05/09(水) 01:24:05.82 ID:dzSL6ENDo

女「……ぅくん」

男「クク。なんだ、なっちゃん」

女「ッ――! こ、こぅくん!」

男「こぉ!?」

女「名前の最後が、こ。だから、こぅくん」

男「……」

男「し、しね!」

女「こぅくん、こぅくん!!」

男「なに言ってんだよ!」

女「し、仕返しだよ……」

男「……ちっ」 

女「うぅ……」

  顔が火照っているのを感じる。
 彼女は下を向いていて表情を読み取れないが、俺と同じ状態だろう。

男「お前は本当に馬鹿だな」

女「男くんだって同じだよ」



130: ◆1muWEKgdtE:2012/05/09(水) 01:24:47.74 ID:dzSL6ENDo

男「はぁ……」

 無駄に体力を使ってしまった気がする。
ひどく疲れを覚えた俺は彼女のベッドに仰向けに寝転んだ。

女「ベッド汚くなる」

男「お前だって俺の布団に横になるだろ」

女「におい嗅がないでね」

男「誰が嗅ぐか、変態」

女「ふぅ……私も疲れた」

  彼女は俺から少し離れたところに同じように寝転がった。

女「……」

男「……」

女「あのね、男くん」

男「なんだよ」

女「もしも、の話なんだけど……」

 彼女は神妙な調子で語りだす。

女「もし、誰かと結婚するとしたら、やっぱり元気な人の方がいいよね。
  お金もかかるし、子供にも影響出るだろうし」

男「そりゃ、元気に越した事はないが。急に結婚って俺としたいのか、結婚」

女「そ、そういうわけじゃないけど! というか、付き合ってすらないし」



131: ◆1muWEKgdtE:2012/05/09(水) 01:25:44.56 ID:dzSL6ENDo

男「ああ、そうだな」

  これは悪くない流れなんじゃないか、とも思うが、今ここで良いのかと悩む気持ちがあった。
 新妻さんとの話の後で、彼女につけいるかのような感じがして、後ろめたくもある。
 やはり落ち着いた明日にすべきだろう。
 ひとまず、今日は雰囲気を壊さない程度に留めておくことにする。

男「それに病気の事だって、言われているほど気にする人は少ないだろ」

  医療はこれからも発展していくだろうし、なにより、
 彼女の病気は他言さえしなければ病気と悟られる事もない。

女「まあ、そうだけど」

男「それに俺が――」

  いるから、と言おうとした俺を遮って彼女は立ち上がった。

女「や、やっぱり、今のは忘れて! 私、リビング行ってくるね」

  言い残して、いそいそと部屋を飛び出してしまった。

男「またかよ」

  彼女がこうして部屋を出るのは何度目だろう。
 3日に一度は見ているような気さえする。
 そんな彼女の、単純な行動にも今では可愛らしささえ感じるし、
 現に俺は今いくらか頬が緩んでしまっていた。

男「別にいいか」

 そう思った。



132: ◆1muWEKgdtE:2012/05/09(水) 01:26:52.48 ID:dzSL6ENDo

  彼女が外に出て間もなく、新妻さんが訪ねて来た。

新妻「男くん、遅くなっちゃったけど、ご飯できたよ」

男「わかりました」

  時計に目を向けると、ちょうど8時半を回ったところだ。
 普段より大分と遅い食事になってしまった。

  俺が食卓に着く頃には、すでに食事の準備は済まされていた。

女「いただきます」

  この面々で席を一緒にするのは初めてである。
 おじさんと新妻さんは、何やら二人で話をしているようだった。 
 女は、こちらをちらちらと見ながらも、無言でおかずを口に運んでいる。

男「……」

  俺も特に話す事はないので、黙々と箸を動かす。
 しかし、気まずい雰囲気というわけではないので、居心地が悪いなんてことはなかった。

女父「そうだ、男くん」

  ふいと、おじさんが話しかけてきた。

男「なんですか」

女父「二人は……あー、付き合ってるのか」

女「ッだ――!」

  俺が答えるより早く、女が吹きだしてしまう。



133: ◆1muWEKgdtE:2012/05/09(水) 01:27:34.93 ID:dzSL6ENDo

女「ごほっ……お、お父さん、いきなりなに聞いてるの」

女父「いや、そろそろ、そうなっても変ではないだろうと思ってな」

女「やだなぁ、付き合ってな――」

男「付き合ってます」

女父「ふむ、そうか」

男「はい」

女「お、男くん! 嘘はよくないよ!」

女父「なんだ、嘘だったのか?」

男「ノーコメントで」

女父「そうか」

女「もっと、追求しようよ!」

新妻「おめでとう、二人とも。明日はお赤飯にするわね」

女「そんなんじゃないです!」

男「よろしく」

女「ええぇぇぇえええ!?」



          おわり



135:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋):2012/05/09(水) 02:29:49.26 ID:MOkbValSo

乙!面白かった!……って、ええぇぇぇえええ!?



136:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道):2012/05/09(水) 08:04:08.14 ID:tSL5Cw/AO


ってぇぇぇぇぇぇぇ!?



137:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/05/09(水) 08:19:09.18 ID:b98524YIO

おつ



引用元
男「おい、ちょっと来い」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1335261467/
[ 2012/05/09 17:00 ] 男女SS | TB(0) | CM(0)
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